ヤンゴンの土地抗議運動

ミャンマー時事, ヤンゴン, 社会

マハーバンドゥーラ公園の横を歩いていると、見慣れないものが目に入った。公園の前の歩道に手作りテントが数十メートル並んでいた。マハーバンドゥーラ公園はヤンゴンの中心スーレーパゴダのすぐ脇だ。東京でいうと、日比谷公園だ。テントの前には赤い看板がいくつも掲げられていた。

マハーバンドゥーラ公園の前の抗議テント
マハーバンドゥーラ公園の前の抗議テント

その中に英語の看板があった。

「我々は昔からティンガンジュンに住んでいたが、1991年に軍によって追い出されてしまった。我々の土地を返せ!」

といった内容だ。軍政時代には強制立ち退きはよく聞いた話だ。当時、軍政には誰も逆らえなかった。突然住んでいた場所から立退きを命じられ、代替地(多くは元の場所より条件が悪かった)に強制移住させられたのだ。

抗議の立て看板
抗議の立て看板

抗議活動(ただ座っているだけのようだったが)をしている人に話を聞くと、

「祖父の代からティンガンジュンの土地に住んでいたんだ。でも、今じゃみんないろんな場所にバラバラに住んでいる。オレたちの土地を返してほしい」

私には興味深い話だったが、抗議テントの前を歩いている通行人は誰も興味を示さない。写真を撮っている私のほうが珍しいようで、こちらをチラチラ見ていた。

抗議テントの中で過ごす人たち
抗議テントの中で過ごす人たち

アパートに戻って写真をプリントして近所の人たちに見せた。このティンガンジュンの土地の問題はみんな知っていた。ジャーナル(タブロイド紙)にも出ていたという。近所の人たちは同情するのかと思っていたが、全然違った。抗議活動をしている彼らに批判的なのだ。元々、ティンガンジュンの土地は彼らの土地ではなかったのだ。要は、政府の土地に不法占拠で勝手に家を建てたが、それを政府に咎められて追い出されたらしい。それで誰も同情しなのだ。それに民主化以降、こういう話がたくさん出てきたという。最初のうちは同情を集めたが、あまりにも多くなりすぎてこの土地を巡る話題にうんざりしているのだ。

最近、土地争議が増えたのに民主化以外にもう一つ理由がある。土地の値上がりだ。ヤンゴン中心部の土地の価格は東京とあまり変わらなくなってきた。私が住んでいる築40年のアパートの部屋も、2年くらい前までは200〜300万円で売り買いしていたのが今では1,000万円を超えている。マハーバンドゥーラ公園の近くにある、サクラタワーのオフィスの賃料は東京の一等地にあるビルの賃料と変わらない。彼らが追い出された土地も昔は二束三文だったが、今ではかなりの金額になっているのだ。

ヤンゴンで一番賃料の高いサクラタワー
ヤンゴンで一番賃料の高いサクラタワー

また、軍政時代に強制移転させられた人の中には、今ごろになって政府から土地を一部返還してもらった人もいるらしい。元々その土地を所有していた人たちだ。さらに、政府の土地を不法占拠した人たちの中には、場所によっては最近居住権を認められた人たちもいる。

そんなこんなで、ヤンゴンの土地を巡る争いは「かわいそうな人たち」だけで済むような話ではなくなっている。