• 今発売している週刊新潮、10月11日号が手元にある。この146~149頁に『スー・チー女史が「希望の星」という「ミャンマー報道」は間違っている』という元ミャンマー大使の山口洋一氏による手記が出ている。私の友人たちの間でもこの手記のことは話題になっている。今の時期に軍政を支持するというのは一種の勇気かもしれないが、事実誤認が多い。いくつか取り上げてみたい。

    実は、デモを行っているのはいわゆる一般市民ではなく、言葉は悪いですが、その多くは無頼漢や与太者、失業者などで、NLDから金銭の提供を受け、動員されているのは事実なのです。

    これは、デモが盛んに行われていた頃に国営放送が放送していた内容と同じである。ミャンマーの国営放送は中国の国営放送と同じで、当局の都合の悪いことは流さない、政府の宣伝放送局である。私はデモが盛んだった頃何度もヤンゴン在住のミャンマー人や日本人に電話で聞いたが、今回のデモについては血気にはやった若者はいても、無頼漢や与太者と呼ばれるような人たちはいなかった。また、NLDから金銭の提供があったという証拠は現時点では出ていない。88年の『民主化暴動』のときは、文字通り暴動に近い事態になり、山口氏の書いている無頼漢や与太者たちが騒ぎに乗じて盗みを働くということが多くあった。

    その証拠に、96年、ヤンゴン市内でスー・チー女史の乗った自動車が、暴徒に囲まれ、立ち往生する事件がありました。彼女の身に危害が及ぶ寸前、警官が暴徒を排除し、守ったのです。

    これは、1996年8月にヤンゴンのダラー地区で起きた車内ろう城事件のことだと思われる。この時期、スーチーは自宅軟禁から解放されていた時期で、政治活動を行おうとヤンゴンから地方へ車で出発したがダラー地区で軍政当局に制止された。そこで、スーチーは軍政に抗議するため、車内に数日間ろう城した。ろう城した理由については、軍政の横暴を海外にアピールする意味があったためだともいう。

    88年当時、国内では18の少数民族が、反政府の武力闘争を繰り広げていました。首都に住む市民でさえ、日常的に銃声を耳にしていたほどの激しい内戦だったのです。

    私は87年に初めてミャンマーを訪れたが、その当時ヤンゴン市内は平穏であった。80年代JICAの仕事で数年間ヤンゴンや地方住んでいた方と親しくしているが、ヤンゴンで日常的に銃声という話は聞いたことがない。この当時、ヤンゴンを含むビルマ族が多く住む地域は平穏で、シャン、カチン、カレンなどの少数民族の地域では戦闘が続いていたというのが事実だ。ヤンゴンで銃声というのは、50~60年代のことである。

    他にも事実誤認があるが、これくらいにする。山口氏の手記が全て誤りとは言わない。スーチー善、軍政悪という視点でしかミャンマーを語らないマスメディアに問題があるという、山口氏が指摘する点については、私も賛同するところがある。しかし、事実誤認を前提としたこの手記では逆効果になると思う。それに、ミャンマー問題に詳しくない一般の人がこの記事を鵜呑みにする危険性がある。週刊新潮も影響力のある週刊誌だから、もう少し注意して記事を載せるべきではないか。

    実は、山口氏とは以前日本で一度お目にかかったことがある。ミャンマーから伝統舞踊のグループが来日したときに、山口氏が個人的に鎌倉へ招待したということがあり、そこに私も同行したのだ。そのときの山口氏は全然官僚らしくなく、誰にでも気さくに接する方で好印象であった。その方がこのような手記を書くのは、氏の周りの人たちが偏った人たちばかりのせいだろうか。残念である。

    Posted by 後藤 修身 @ 17:29

  • 7 Responses

    • 早速読みました。

      実は亡き父がモーリシャスで山口氏にお世話になったことがあり、あまり悪口を言うのは申し訳ないのですが・・・過去に出版した著作と同じく、相当に偏ってますね。。。

      不思議に思うのは、町で普通のミャンマー人達と話をすれば、必ず「軍政批判」を耳にするはずなんだけど・・・山口氏は現地の人と話をする時には最初に自分の肩書きを相手に教えちゃうのでしょうか。
      それだと警戒されて何もしゃべってくれなくなるかもしれません。

    • 新聞やテレビの報道だけで他国の情勢を把握したつもりになってしまう多くの日本人がいるだけに、メジャーな週刊誌に肩書きのある人物がこのような内容を「事実」と断言して活字にしてしまうのはいかがなものでしょうか。

      真実は一つ、事実はそれを語る人の数だけあるから仕方がないのでしょうか。軍事政権に援助をしていた日本は、はなからミャンマーの国民の苦悩など気にしていない、元々日本もこんな国だったから。

      だけど今は少なからず変わったのだから、見てみぬ振りをしてほしくないです。週刊新潮は何か意図があって掲載したのでしょうか。

    • ご無沙汰しております。中刷り広告の見出しが気になっておりましたが、やはりこんな内容ですか。マスコミに対していかにも「一石を投ずる」的な指摘なだけに、日々の報道やその機関の姿勢に疑問を抱いている人たちにとっては「新たな視点」のような切り口に感じられるかもしれません。

      しかし、その前提となる内容が余りにもお粗末。しかし大手マスコミが「元大使が語る“実態”」として報じてしまったら、後藤さんのご指摘どおり、この国について余り知らない人はこれを信じてしまう恐れがありますね。

      実際、ネット上ではブログ等で早くもこの事実誤認の内容を支持するような意見が書き込まれています。確かに日本のマスコミのミャンマー報道には民主化を絶対視する思い込みがあって、実態から離れたことが報じられることもあります。そこに乗じて、元大使は間違ったことを“事実”として断言し、説得力を持たせようとしている。しかしその視点はあくまでも特権階級の側からの偏ったもので、その言動は一貫して一般ビルマ人を見下すスタンスに基づいており、それだけに見過ごせません。

      後藤さんの指摘は、コンパクトかつ具体的にまとめてあり、とてもわかりやすいです。早速私のサイトのトップページにリンクさせていただきましたので、もしよろしければご確認ください。

    • ロン爺さん、
      山口氏が本気でこの文章を書いているとすると、地元の人たちの本音を聞いたことがないでしょうね。そもそも、山口氏が本気で書いているのか、何か理由があって書いているのか知りたいです。

      kabukiさん、
      週刊新潮はミャンマーを昔から注目していたわけではありませんから、意図は特にないと思います。週刊新潮は一般のマスメディアとは逆のことをわざと主張したり問題点を指摘することが多くあるので、それのひとつではないでしょうか。それにしても、少しは調べて載せればいいのに。

      BADAUKさん、
      リンクをありがとうございます。今回の「手記」はデモ直後だということもあり、ちょっとひどいですね。週刊新潮+元大使ということで、間違った「事実」が事実になる危険性が大いにあります。

    • 本日、テレ朝がこの手記に着目しての山口元大使をサンデープロジェクトに出演させましたね。

      私をはじめビルマが好きな日本人は、この国の居心地のよさに魅せられてリピーターになってしまうと思います。旅行中、時には嫌な思いをすることもありますが、それを補ってなおあり余る良さがこの国にはある。ただ、そこから感じる「居心地の良さ」には、外国人旅行者である自分のわがままによって成立している部分もあります。しかし同時に、親切にするビルマ人にとっても、こうした旅行者を迎えることが彼ら自身の幸せに通じる場合もあるため、わがままな部分があっても、それは必ずしも否定されることではありません(もちろん否定すべきひどいわがままもありますが)。ビルマにおける居心地の良さには、外国人旅行者である日本人と、それを迎えるビルマの一般的な人々との間の人間関係の上に成り立っており、いろいろ考えさせられるものがあります。

      さて山口元大使は、95~98年の3年間、ビルマに滞在していました。それは旅行者という立場ではなく、大使という身分での駐在ですが、だからこそ、いわば「竜宮城」にいるような居心地だったのでしょうね。それでビルマ好きとなり、現在もビルマに関わる活動をしているようです。私も、ビルマの人たちにお世話になっていますから、ビルマという国での出来事を見るとき、どうしてもそうした人たちに視点を置いてしまいます。私の場合の「そうした人たち」というのは、本当に一般的な人々で生活も決して楽ではありません。一方、山口元大使も、ビルマ好きには違いありませんから、この国の出来事に対しては、お世話になったビルマ人に視点を置くでしょう。しかし、その視点というのは、軍の特権階級で、それ以外の人たちは見えないようです。

      今回テレビに登場した山口元大使は、まさに竜宮城帰りの感覚。一般民衆に目を向けない。また目の前に存在していても、まったく見下して視界に入れない感覚。そんな極端な人間だからこそ、テレビに出演させて討論させるのは、テレビ番組的に成立しうる内容でしょうが、ガチンコ感覚だけで思いついた企画だとしたら、テレ朝の姿勢もまったく迷惑以外何ものでもありません。田辺さんが、きちんと説明してくれたからかなりフォローはできていますが、アウンサンスーチーさんと軍政との対話に関する要点は尻切れトンボでした。ただ最後の方で森本敏氏(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E6%9C%AC%E6%95%8F)のまとめ方はとても面白かったです。「日本の政府・外務省の名誉のために弁解しておくが、元大使の考え方と政府・外務省の考え方は相当ずれている」という森本氏の発言は、確かに弁解で、長井さん事件を含めて今後の日本政府の対応次第では、実は政府・外務省も元大使と同じ考え方だったということになりかねませんね。そしていずれにせよ、あの番組の場で山口元大使は、外務省があなたと一緒にされては「不名誉」だ、と言われてしまったわけです。

      番組としてはこのような結論でしたが、番組全体における発言の機会は、その発言内容を考えると元大使が優遇されていたといえるかもしれません。

      今回のデモに関して、日本にマスコミが報道しない内容の一例として、デモはNLDから買収された者たちによるやらせだ、といったことを元大使は挙げていますが、日本では情報は何でもかんでも報道するのではなく、信憑性の低い内容は通常報道しないでしょう。

      一方ビルマの報道事情はどうでしょうか。言論、特に政治的な発言の自由はなく、出版について厳しい検閲があり、ビルマ語の新聞は国営紙しか出版ができず、民間での出版が許されていないのがこの国の実情です。せいぜいあってもタブロイド誌のような週刊誌の類。雑誌はたくさん出版されていますが、政治的な意見や報道は一切できません。私がビルマで発行部数がトップクラスの雑誌を取材した際には、政治的なことは訊ねなかったにもかかわらず、編集長から「せっかくだが内容の公表はしないでくれ、私たち出版業界の人間にとって、政府の言論統制はとても恐ろしいのだ」と申し出られて、この内容はお蔵入りとなっています。

      自由な報道がなされている国でも捏造はあります。ましてや報道について独占的・統制的な体制下にある国の国営放送の信憑性は押して知るべしです。いうなれば、大本営発表と同じです。そのような内容を日本のマスコミが報道しないのは、偏っているのではなく、単に信憑性が低いからなのです。いうなれば、噂話のレベルなのです。実際、元大使が報道されない事柄のひとつとしてあげた「にわか坊主」の話も、今回のデモ中に飛び交った噂のひとつにしか過ぎません。この種の噂話は、ビルマ関係者はいろいろ耳にしているでしょうが、いちいち報道などしません。

      たとえば、政府が今回のデモを仏教徒とムスリムの対立にすり替えようとした、という話なども伝わってきています。実際、ビルマでは何か政治的な動きがあると、事がムスリムの襲撃とか、または仏教徒側からの衝突事件になってしまうということがあります。今回も、政府寄りの仏教徒がモスクを襲撃するという計画があり、それを事前に知った仏教僧が人々と一緒になって、モスクの前に立ちはだかり、阻止したという話がかなり真実味を帯びた形で伝わってきました。実際ありそうな話で、本当のことだったかもしれません。しかし、これも噂のひとつとして報道はされていません。「にわか坊主」の話も、この種というか、それ以下の噂話です。そんな話に結構時間が割かれていたのは、元大使の話は大半がそのレベルの話だから、番組上仕方がないのでしょう。

      しかし、この番組を見て、もしかしたら、これを信じるような人が、少数ではあっても、いるかも知れないので、その点を懸念しています。実際、ネット上でも、驚いたことに政府発表を鵜呑みしている書き込みがあり、このサイトと相互リンクしている「ミャンマー組曲」のブログ(「越楽天」10月4日)など、驚くべき感覚の人たちの存在を知ることができます。

      書き込みが長くなってしまいましたが、今日の番組を見た方は、どのように感じられたでしょうか。

    • >ロン爺さん
      >kabukiさん
      >BADAUK さん

      皆さん、「 ビルマ ぼうめいしゃ(なんみん)in Japan 」と言うサイトをご存知ですか?
      ご存知でしたらどのように思ったかを聞かせてください。

      また、ミャンマー問題の問題点は、具体的に何だと思いますか?
      あなた達が思うすべてをあげない事には話にならないと言わざるを得ません。

      あなた達の言う「 民主化 」とは具体的にどうしたいのですか?
      民主化の内容を具体的に示さなければ話になりません。

      民主化は 「 万能な魔法の杖 」ではありません。

      それは、イラクやアフガニスタン、タイやインド、ネパール、フィリピン、スリランカ、アフリカなどを見れば明白です。

      具体的内容をあげない事は 「 明白な悪意がある 」と言わざるを得ません。

      外国の工作集団による単なる外患誘致と言われる事は避けられません。

      事実、第二次世界大戦前、第二次大戦中、日本とアメリカ国内では
      主に旧ソ連の工作機関のスパイ、あとは中国の国民党の情報工作員が、やりたい放題工作活動を行なっていて、スパイ天国状態で
      日米の対戦は主に旧ソ連のスパイによる工作で仕組まれた事がアメリカの当時の調査した公文書からも明らかになっています。

      事実、アメリカは第二次大戦後もアメリカ国内に潜伏したスパイの侵食状況があまりにも深刻で
      旧ソ連などのスパイの掃討を自前では行なえず、ドイツの元秘密警察の強力な協力を得て、非常に苦戦し、掃討に長期間かかってしまいました。

      アメリカは日本でも、旧ソ連などの工作員の一掃のため、レッドパージを行いましたが、
      とても苦戦したにもかかわらず、完全な掃討は出来ず、
      アメリカの情報機関でも「 相当に深刻な状態で旧ソ連などの工作機関に日本の様々な分野が侵食されているありさまだ。」
      と他国の治安機関の関係者に吐露しています。

      アメリカや戦後の日本は民主国家ですが、こんな事になってますよ。

    • >NLDから金銭の提供があったという証拠は現時点では出ていない。

      在日ミャンマー人の店が無許可でミャンマーに送金業務をする際に、
      手数料から現地の団体に活動資金を提供し続けていた事が
      つい最近、日本で銀行法違反で逮捕された事によって明らかになりましたが。

      また、活動家がアメリカなどの手引きで近隣諸国で訓練をされてミャンマーへ再び投入されて、
      ミャンマーを属国化するための活動のために「民主化活動」と言う名目で行い続けている事が欧米の情報から明らかになっています。

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