民主化が遠のく?

ミャンマー時事

まず、私は研究者でもジャーナリストでもないし秘密情報をもっているわけでもありません。新聞や本などでオープンになっている情報、自分の現地での経験、周りの人たちからの意見を元に書いているだけです。間違いがあるかもしれませんので、その点を留意してください。

キンニュン元首相が真の穏健派とはいえない(欧米向の一種のカモフラージュ)というのはすでに書きました。マスメディアでは、強硬派(保守派)が穏健派(改革派)を追い出した政変というように書いているところが多いですが、実際にはこうした民主化をめぐる対立などではなく、別の次元での権力闘争だと思います。たしかに民主化に対するスタンスの違いは多少はあるでしょうが、それによって両者が争うような根本的な違いがあるわけではありません。これから先、民主化がどうなるかは分かりませんが、現時点で「大きく遠のいた」と断定するのは早すぎると思います。また、今回の政変はキンニュン一派の追い落としというだけでなく、もっと大きな変動が起きているように思えます。「中国国境の街ムセなど…国防省情報局員100人以上が摘発」や、「国家情報局を解体」などが報道されているように、情報局の大幅な弱体化です。ただ、「軍情報局が廃止」などと間違った記事も見受けられますので注意は必要です。新華社の記事にあるように、国家情報局(NIB)と国防省(軍)情報局(MI)とは兄弟とはいえますが別組織です。

ここで出てきた軍情報部(MI)ですが、ネウィン独裁時代から続く軍の権力保持に多大なる力を発揮してきました。一般国民の監視という職務もありますが、軍の監視も主な職務でした。実際にクーデターを未然に防いだこともあります。情報局は軍の一部ですが、国民から見ても一般軍人から見ても特別な存在です。また、MIはエリートの集まりでもあります。スタッフは軍の中から優秀な者をリクルートしてくることが多いといいます。キンニュン自身、士官大学ではなくヤンゴン大学出身でネウィンの信任も厚く、MIの局長をやっていました。このMIを軍本体が抑えて、権限も大幅に縮小しようとしています。
【*私の勘違いでした。正確には、ヤンゴン大学中退、国軍幹部候補生学校卒です。10月27日追記】

また、解任の理由として汚職をあげていますが、キンニュン本人にはそれほど大きな汚職の噂はたっていませんでした。ただ、情報部はたしかに汚職をやりやすい立場にいます。今回、軍と情報局とで銃撃戦があったという中国国境の町、ムセ。私も2001年に行ったことがありますが、国境貿易が盛んなだけあって、汚職のネタがたくさん転がっている町です。イミグレの職員たちの間で最も行きたい地域がここムセだといわれていました。数年間ここで働くだけでかなりの財産をつくることができると噂されていました。また、軍情報局はそれを管理する位置にいて、より大きな権力を握っています。汚職が行なわれていたのは事実でしょう。対外的折衝や監視などの職務につく情報局は最も利権に近い位置にいます。実際、情報局の関与している企業がいくつかあり、同業他社ができない業務を特別に行なうことができます。軍が情報局に持っていた長年の複雑な感情、それに最近の利権の独り占めの状況を見て、反感を強めていったのではないかと推測します。

ただ、情報局がこのまま軍の圧力にだまっているだけでなく、何がしかの動きを見せる可能性もあります。何せミャンマーで一番のエリート集団ですから。また、軍が長年権力を維持できたのは情報局の力が非常に大きかったという事実があります。情報局が縮小されたらこれから軍が権力をずっと維持できるかどうかわかりません。それに、強硬派といわれているタンシュエ、マウンエイですが、今までより民主化方向の政策をとる可能性もあります。いずれにしても、90年以降膠着していたミャンマーの政治が大きく変わるのではないかと感じています。